月さえも雲に隠れた静かな夜だった。 貪っていた口腔からようやくルフレは唇を放すと、感極まったというように溜息を零した。 もはやどちらのものだかわからない唾液に塗れた彼女の唇と、覗く赤い舌が熟み切った果実を想像させた。 ルフレはそのまま身を起こし、組み敷いたクロムの腰元に手を掛ける。衣擦れの音が耳に響くと、先走りですでに濡れて大きくなっていたモノを彼女は愛おしそうに取り出していた。そして一度クロムを見上げてから、柔らかそうな唇を開き、舌を這わせた。 腰元から脊髄に走った感触に、思わず息を漏らした。それを知ってか知らずか、ルフレはゆっくりと舐めていく。 形の良い、小さな口蓋に収まった醜悪な肉塊に、どうしようもない背徳感を感じて酷く興奮する。 上半身を起こすためにベッドについた右手はそのままに、空いた左手を伸ばし頭を撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。 クロムの快感を素直に伝えるそれは、ルフレの口内でより質量を増す。どうやら苦しいのか、彼女がくぐもった声を漏らした。彼女の喉元の収縮に軽く締め付けられ、クロムも息を漏らす。ルフレはそれを一瞥すると、より早く舌を動かし始めた。 自分の吐く息のリズムが荒く、早くなっていくのがわかる。それとともに彼女の口元から漏れる水音が、より深みを増した。 悪寒のような震えが背筋を伝って駆け上がってゆく。彼女の口内の粘膜の感触だけが、酷くはっきりと感じられた。 「ルフレ、ルフレ・・・!もう・・・!」 限界を感じ、クロムはルフレに声をかける。自らの吐く息ですら感覚を鋭敏に感じてしまい、より自らを追い詰めるような恰好になってしまった。ルフレはその声に応え、ゆっくりと口元を放す。ひんやりとした空気が最後の刺激になったのか、我慢しきれずに溜め込んだものが弾け飛んだ。 飛沫を顔面で受け止めた彼女は、ゆっくりと細い指で白濁を集め、口に含んだ。その様子は幼子が口元のお菓子の欠片を漁るようで、クロムの興奮を再びあおるのに十分だった。硬度を増したそれに気付いたルフレは、再び指を掛けると、先ほどの無垢な様子から表情を一変させ、妖艶な笑みを見せた。 ルフレは、クロムのモノに触れる右手はそのままに、左手を上着に隠れた彼女の足の付け根に自ら這わせる。そこはすでにしたたり落ちそうなほどの水音をさせていた。ルフレは恍惚とした笑みを浮かべながら、クロムにまたがり、腰を下ろしていった。ん、ん、と二三度、苦しさを逃がすような吐息を付きながらも、起立をすべて自らの内に納めると、ルフレはゆったりと笑みを浮かべた。 お腹がいっぱいなのだと、下腹に手を這わせたルフレが言い、ゆっくりと身を動かす。 気持ちの良いところにあたっているのだろう、あ、と言葉にならない母音だけの密やかな高い音の吐息を漏らした。 彼女が身を揺らす事に、粘膜同士の泡立つような音が耳に響く。彼女の上着に隠れているそこは、どのような光景になっているのだろうかとクロムは思う。彼女の華奢な身体は、どうやってクロムを飲み込んでいるのだろうか。 思わず裾に手を伸ばすが、ルフレによって阻まられる。 「・・・ね、見たいの?」 いたずらっぽく問われ、他に何も考えられずクロムは首を縦に振った。 必死なそれにルフレは、自らの額に浮かんだ汗を指で拭い、クロムの薄く開いた口元に咥えさせる。 機嫌を取るように、クロムはその指に必死に舌を這わせた。彼女の汗の味がした。 ルフレは小さく笑い、そして自らの上着の裾に手を伸ばし、そしてゆっくりとそのすべてをクロムの視線の元に晒してゆく―――――。 ● 「うわああああああああああ!!」 クロムは布団を跳ね除け飛び起きた。汗が吹き出し心臓が痛いほど鼓動を刻む。居ても立ってもいられず、 「ああああああああああ」 と意味のない音を叫びながらクロムはベッドから飛び出し、そのままの勢いで地面に頭を打ち付ける。 「ああああああああああ」 沸騰したままの頭を、頭突きの痛みで誤魔化そうとするが、やたらと詳細な夢がそれを阻んでいた。 手を伸ばせば、あの柔らかな彼女の四肢に触れるのではないかという程の。 「考えるな、くそ、考えるな・・・!」 ガンガンと地面に頭を打ち付け、彼女の白い素肌を頭の中から消そうとするが消そうとすればするほどより強くそれを意識させることになってしまうようで、クロムはどうしようもない悪循環に苛まれていた。 所で今は皆が寝静まった静かな静かな夜中である。そのためクロムの悲鳴は皆の天幕までよく届いていた。 悲鳴の後に聞こえた鈍器で何かを殴るような音に、皆は飛び起きてクロムの天幕に向かう。 時間差はあれど、一番早く辿り着いたのは、クロムの天幕に近い位置に構えていた――― 「ちょっと、クロム?!いったい何があった、・・・の?」 ルフレだった。 地面に叩頭しながら文字通り頭を叩きつけているクロムに、すわ敵襲かと支度もそこそこに、とりあえず魔道書をひっつかみ駆けつけたルフレは怪訝な表情を隠せず問いかける。上着を脱いだ襟ぐりの深い服から覗く鎖骨と、寝乱れた髪に、夢の中で見た彼女の姿が重なり、クロムは飛び上がる。 「わ、ルフレ、近寄るな、近寄らないでお願いします!!」 顔を真っ赤にしながら叫ぶクロムに、ルフレは怪訝な顔をしながら近づいていく。 意味がわからないと、まさしくそうだろう。クロムが一方的に気まずいだけで、ルフレには思い当たる節などないのだから。 それからしばらくは自警団の風景として、 「勘弁してくれ」 と泣き言を漏らしながら逃げ回るクロムと、 「ちょっと?!人の顔見て逃げるなんていい度胸してるじゃないの!」 と心配を通り越しだんだん怒りが強くなってきたルフレとで繰り広げられる鬼ごっこが繰り広げられていたのだった。 その汗の味は(2013/01/27) 戻る |