1.彼女の不在

あの時駆けだした彼女を止められるのならば、この命すら惜しくはなかった。

戦いの最後、かの邪竜に止めをさせる瞬間、彼女はこちらの制止も聞かずに飛びだした。
その時一番近くにいたはずの俺はおろか、四方に散らばり止めどなく召喚される敵将たちとの戦いで満身創痍だった味方達に、この瞬間を狙っていたとばかりに飛びだした彼女を制止することはできなかった。
彼女、ルフレは、荒い息を吐く自らと同じ姿をした邪竜の現身の前に立つと、ためらうこともせずにその身体を剣で貫く。俺の叫びや、仲間の悲鳴は、ルフレの行動の枷にはならなかったのだ。
おそらく、ルフレは決めていたのだろう。何を犠牲にしてもギムレーを滅ぼすと。

「おそらくは、私たちのためではないかと思います」
娘のルキナは言う。彼女の名の音に似せた名前を持つ少女は、赤子の自らをあやしながらそう言った。
「私と、マークはお母様の血を引いているから。ギムレーを封印したのでは、この聖王家の血が、次の器を生むとも限らない・・そういうお考えがあったのではないでしょうか」
とどこか寂しげに子をあやす。二度も目の前で母親を喪った少女は、それでも気丈に前を見据え、この戦いからの復興を考えている。俺に似ず、強い子だ。今だ目の前の喪失を受け入れられない俺とは、大違いだった。

戦いから区切りをつけるように、彼女の葬儀が営まれた。棺に納める遺体は無く、ただ彼女のローブだけが納められた。彼女が好きだと言っていた、色とりどりの花が、これでもかと仲間たちの手によって納められる様子を、俺はぼんやりと一番遠くから見ていた。仲間たちはそんな俺の姿を痛ましげに見遣るだけで、何も触れようとはしなかった。
葬儀を取り仕切る神官の声に、堪え切れなくなった妹のリズが、すすり泣く。こんな時、付き人のフレデリクはいつもなら「王族ともあろうものはもっとしっかりしなくてはいけません」などと激を飛ばすのだが、今日ばかりは何も言わずに黙って見守っている。リズの涙に誘発されたように、あたりから押し殺した声が漏れ始める。まるで蝉の合唱のようだと、何の気なしに考えていた。
やがて葬儀は終盤に差し掛かり、彼女の代わりに花が詰まった棺は上から蓋をされた。金槌を渡され、促されるまま膝を付き、その手を介助され、釘を打ちこんだ。一回だけ、確かに釘を打つと、すぐにフレデリクによって立たされる。ぼんやりしたまま、膝の砂すら払わずにいると、しっかりしろ、と言いながらガイアが乱暴に砂を落としてくれた。それに礼を言うと、ガイアは胡乱な俺から返事が来たことに驚いたのか、どこか苦笑を浮かべながら、もう一度、「しっかりしろ」と肩を叩いた。
棺は地面にぽっかり空いた穴に納められ、上から土を掛けられた。どんどん埋まっていくそれに、特に何の感慨も覚えなかった。(だって彼女はそこにいないじゃないか)
死体のない葬儀。ままごと以外の何物でもない。なぜ彼女の不在を、彼女の死と結び付けられるのか。彼女はあの時また会おうといった。それを嘘にして、どうして区切りと付けたがるのか。何もわからない。どうして彼女は俺を裏切ったのか、俺にギムレーを封印させてくれなかったのか。決戦前夜にした俺との約束を反故にしたのか、なぜ俺を裏切ったのか、俺には今でも分らなかった。

葬儀のあと、かつての仲間たちを一人ずつ訪ねると、あの戦いの前夜、彼女から渡された品物があったようで、それを俺に皆告げ、見せてくれた。だが、俺には何も残してはくれなかった。
『あなたを置いて、どこかに行くわけないじゃない?』
といった声が今でも耳に残っている。どこにも行かないとルフレは言った。俺の不安を宥めようとして言ったそれは、しかし誤っていた。彼女がどこかに行ってしまうという俺の予感は、正しかったのだ。

自警団で拠点としていた小屋、城の彼女の自室、共に机を並べて政務を行った執務室、湯を浴びた風呂、彼女が褒めた城の花壇、幾夜も共にした寝台、それらすべてを順に回って彼女の足跡を探している。
バルコニーは月明かりがきれいで、それを肴に酒を楽しんだことが何度もある。彼女は酒があまり強くなく、それをからかうと真っ赤になって食いかかってくる。じゃれつかれているようにしか思えないそれ。あのときの酒の味は、どんなであっただろうか。
政務が遅くまで続いた夜、コックさんを起こすのも悪いですから、と彼女が手ずから作ったスープの味は、もう忘れてしまった。
彼女の身体の感触すら、もうこの手は覚えていなかった。遠い喪失の彼方だった。思い出すのは、崩れていく彼女の身体。普通に生きて死ぬことすら許されなかった彼女の笑顔。心配させぬよう、自らの去就がそのままこの国の不備とならぬよう、全ての痕跡を拭った彼女のそつのない手腕。
そして俺には何も告げずに遠いどこかへ消えたのか。

「母さんから、父さんに渡すようにと言付かった品があります」
小さな木箱を渡された。開けると、大事そうに絹の布に包まれたそれが目に入る。ゆっくりと開くと、それは結婚の儀に彼女に授けられた、王家の指輪だ。これをはめる指を持った彼女は、もういない。
「これを渡したら、僕たちは好きにしていいと言われているんです。元の世界に戻るなり、この世界にいるなり。ナーガ様には好きにしていいと言質を取っているみたいだから。それに、姉さんはともかく、この世界の僕はどうやら生まれてこないかもだし」
えへへ、とはにかむように笑う、息子に俺は何の言葉もかけてやれなかった。すまない、とこぼした俺に、マークはびっくりしたという風に目を丸め、両手を振った。
「父さんが悪いわけじゃないですよ。母さんが悪いわけでもない。仕方のないことだったと、まだ納得はできないと思うんですけど。でもまぁ、母さんですし。しょうがないと笑って許すくらいは、僕もあの人の息子ですから、してあげないと可哀そうじゃないですか。多分母さんの選択、父さんは怒ってるんでしょうし」
内心、図星を刺され思わずマークの顔を見上げた。
「母さん言ってました。父さんは思ったより子供っぽいから、って。少し心配なのよね、って」
『もちろん、これはあたしのわがままで、あなたがあたしの言うことを絶対に守る必要はないの』
とそう母はマークに告げた。
『でもほんの少しでも聞いてくれる気があるなら、あなたには残酷なことを頼むわ、マーク。あなたはルキナと違ってこの世界では生まれてこないでしょう。ルキナは、いずれ元いた世界に戻ることを選択するでしょう。でもあなたは、元の世界に戻る必要はない。ここでは「あなた」はいない。逆に言えば、あなたは元の世界に戻る必要はないの。だから、できるのであればお父さんを、あの人を、支えてあげてほしい』
そう、ルフレは言ったのだという。
茫然とする俺に、マークは一つの提案をした。
「父さん、お墓参り、行きませんか?」

葬儀後半年経ち、初めて訪れる墓標は、誰かが定期的に磨きに来ているのだろう、墓石はあの日のままきれいな姿を保っていた。誰かが供えた花束もそこにあった。
「姉さんかな」
とマークは笑う。
彼女を悼むようなそれがやけに気に食わなくて、俺は花束を取り上げ、叩きつける。突然の乱暴に、マークはじっと俺の姿を見つめながら、それでも何も諌めようとはしなかった。
激昂にかられたまま、墓石を手にかける。あっけなく横に倒れ、ひびが入る。盛り上がった土を、剣で穿り返す。マークは溜息をつくと、柄の長いスコップを傍の小屋から二つ持ってくる。無言のままそれを受け取ると、マークと二人、ルフレの墓を暴いた。
「こんなことして、母さんに祟られたらどうしよう」
苦笑を浮かべながら、それでもマークは俺に付き合ってその手を止めなかった。やがて、土の柔らかな感触とは違う、板の固い感触が手に伝わった。あのとき、沈められた棺だった。マークと二人係りで穴から出し、しっかりと止められた釘を強引に剥がし、その棺の中を覗き込む。
そうして一人、息を呑んだ。
あの時献じた花は、萎れ元の大きさを保っていなかった。年月の経過に従って枯れ果て、水分を感じさせない縮れた茶色い滓に埋め尽くされるように彼女のローブが棺に納められている。ローブには見覚えがあった。出会ったときからずっと、彼女が着用していたものだ。最期に着ていたものもそうではなかったか。光の粒となって、消えていく彼女の身体が残したものではなかったか。
持ち主のいないそのローブは、かつてその袖を通した人間がいたことを、ただもうどこにも元の用途で使う人間はいないのだということを示している。
その瞬間、身体のすべてが彼女の不在を拾い上げ、俺は耐えきれなくてようやく泣いた。



2.終幕はひとりで

ガタン、と回転が止まった。スクリーンの映像はそこで途切れた。
と同時にうっすらと劇場に明かりが灯る。
静寂が訪れたそこに、溜息を吐き出し、彼女は大きく伸びをした後、ぱちぱちと拍手をした。
どうやら彼女は自らの夫と子供たち、かつての仲間たちの姿に満足したらしい。
「結構みんな美男美女揃いなのねー」なんてはしゃぐ能天気な声を上げてた。
席を一つ飛ばして着席していたあたしに、あのアホ女は映画の感想を言いたいのかしゃべりかけてきた。
「ね、皆結構かっこよかったでしょ。あなたもそう思わない?」
同じ顔が締まりのないアホ面晒しているのに耐えきれなくて、あたしは何も映っていないスクリーンに視線を戻す。
「あんたが死んだあとの話よ?楽しいなんてバカなんじゃないの?」
「えーでもいいじゃない、普通は自分が死んじゃったらこんなの見れないわよ?得しちゃったわ」
こちらの嫌味や暴言なぞ気にも留めず彼女、いやあのアホ(これで十分だわ)は手元のポップコーンを口に含んだ。ふん、と鼻息を零し、あたしも同じようにポップコーンを口に放り投げた。
このちんちくりんがこの世でのあたしの器だなんて、おまけにこいつに止めを刺されてあっけなく消滅だなんてほんとついてないわナーガのバカたれ。教団も教団よ、あたしの名前を冠する宗教ならもっとまともな器作っときなさいよ。
「まああなたにとっては残念な結末の続きだったわよね?」
なんて挑戦するような視線を送るアホ、いいから消滅させてやりたい・・と思ってももうあたしたちは消滅しちゃってるからそれもできないし。そもそもここがどこかもあたしはわかっていないのだ。ナーガがあたしたちを送り込んでこの悪趣味な映画を見せてるんだと思ってたのだけれど、それもどうも違うらしい。
ていうか案外ナーガはあれで容赦ないから、こんな余裕を残すことはしないだろう。だが、これはあたしの力でもない。消去法で考えると、あたしの器になり損ねたあのアホしかいないのだが、そうするとあのアホはナーガの力の干渉から強引にこの空間を作り、肉体の消滅とともに溶け逝くのみだったあたしとアホ自身の意識を切り取って閉じ込めたことになる。ただの人間にそんな力があるとも思えないし、そもそもナーガの力の干渉に完全に耐えきれる亜空間など作れるわけがない。その証拠にこの空間は映画の終了と同時に端から少しずつ壊れ始めている。
それを知ってか知らずか、横に座るアホはポップコーンで乾いた口をジュースで潤していた。
「ちょっと、映画見といて感想のひとつもないわけ?」
ぷんぷん、と自らで効果音を口にしながらアホが怒りを示す。てか性格違くない?
壊れかけてるとはいえ、完全に崩壊するにはまだ少し時間がある。アホを放置してもよかったのだが、放置したら放置したでアホはその間ずっと絡んでくることが容易に予想された。それは面倒だから、と理由をつけ、アホの話に乗ってやることにする。
「あー教団の奴らお前にもうちょい房中術の一つでも仕込んでやったら、あの王様骨抜きにできたんでしょうね」
「?ボウチュウジュツ?防虫術?クロムは虫は平気よ?」
「惜しいわ、漢字間違い。やっぱりアホねー。教団の奴ら常識仕込ませなさいよ」
ごめんなさい?と頭にはてなマークを浮かべたままのアホを放置したまま、あたしは感想を続けた。
「それにしてもあんた墓まで暴かれて。ここから出たら化けて出てやったら?」
「そうね、それもいいわね」
「本当にやるなら、あたしの名前使っていいわよ」
「やった!かの邪竜さまの名前ならなんか畏れ多そうだもんね。ほんとに化けて出てきそうだし。あ、でも変な火種になるのも困るかもな〜」
消えたあとのことまで心配するのかこのアホは、と溜息を吐く。
スクリーンの端が徐々に崩れてきているのを見て、あたしはもう一度口をひらいた。
「ねえ、最後に聞いてもいい?」
いいわよ、とアホが言う。それを聞いてあたしは口に咥えていたジュースのストローを吐き出した。
「なんであんたがあたしを倒すことを選んだの?あのバカ王の剣でもよかったのに。そうしたらあんた、もう一人の子供だって産めたのよ?」
言って、もう一度ストローを口に含む。中身のないそれは、時折溶けた氷から水分を吸い上げる、ずずっという音が響くだけだった。なんとなく収まりがつかないから咥えているだけなのだ。それを見たアホが自らの飲み物を寄越す。
「あんたの娘の言ってた通りの理由なのかしらね」
出した疑問になんとなく一人で回答を付ける。そうするとアホは小さく笑い出した。
「うーん、半分正解で半分外れ。もちろん、器の件はあるわ。竜の器って、聖王家の例を見れば明らかなとおりどうやら血統が割と重要な要素みたいだし。あたしの血が入ったことで、聖王家に邪竜を継ぐ者が出るなんて、て意外とカッコいいかも?それなんてRPG?」
アホの言い回しはよく分らない。受け取った飲み物のストローを口に含む。げ、こいつ炭酸飲んでやがる。炭酸は喉を刺激してあまり好きではない。ゲップも出るし。
「もっと単純よ、あたしはあんたの器でしょう?なら、あんたはあたしだわ。だから、一人で千年、孤独でいるよりも一緒に死んだげたほうがいいかな、って思って」
アホの言葉にぎょっとして持っていたジュースを思わず床に落とす。視界の中のやつの顔は、予想に違わず、穏やかなものだった。
「三歳のころあたしが器だと知った父は、教団の祭壇の奥深くにあたし専用の部屋を作ったわ。そこで何もかも希望は叶えてくれたけど、でも誰ともかかわらせてくれなかった。だからね、あたしはしばらく言葉がしゃべれなかったのよ。幸いにして不憫に思ってくれた世話役の女の人、まあ顔もみなかったけど、この人が食事を届けてくれる時に少しだけおしゃべりしてくれるようになって、それでしゃべれるようになったんだけどね。まあ、その人も父にばれて殺されちゃったみたいだけど。陽もささないから時間の感覚もないし、暦もないからどれだけ時が過ぎたのかも理解できない。よく発狂しなかったな、って思うわ。そのせいもあってあたし本当の年齢しらないのよね」
自分じゃ結構若いつもりなんだけど、本当はもう四十過ぎのオバサンなのかも、とアホは笑った。
「年齢もわからなくなるほどの孤独を、あんたにもう一度味あわせるなんて、可哀そうかな、って」
照れながらそう言ったアホに、どうしようもなく苛立った。立ち上がり、胸倉をつかむと強引に引っ張り上げる。
激情が迸るまま、あたしは奴に言い放った。
「あんた、アホなんじゃないの?!あたしみたいなのの器にされてんのよ、もう少し怒りなさいよ、絶望しなさいよ!あの王様だってあの映画の最後にあんたの死を理解したのよ?人間てのは薄情だから、さんざんあの国のために尽くしたあんたを忘れて、どうせすぐに後妻を入れて万々歳ってオチじゃないの?
それに引き替えあんたは可哀そうよね、産むはずだった二人目も産めず、こーんなところであたしなんかと心中よ?息子は恨んでるでしょうね、なんでお母さんは僕を生んでくれなかったのーって!」
「まあまあ、落ち着きなさいよ」
ふん、とアホの身体を放り投げる。床に倒れこんだアホは、咳き込みながら、胸元を直すとすぐに立ち上がった。
「結構あんたっていい奴なのかもね。あたしのために怒ってくれる」
にこりと笑ってそういった。思わずかっとなる。
「あ、あんたのためじゃないんだからね!あんたがあたしの器なんだから!あんたのことはあたしが怒る権利があるから怒ってるだけよ!」
そっぽを向いたあたしに構わずやつは苦笑を浮かべた。
「・・・って話してたけど、そろそろ終わりみたい」
崩壊がとうとうあたしたちの周りまで及んでいた。立ってる場所が、漆黒に呑まれたらもう終わる。
「ふん、終わりになんてしてやんないわよ」
あたしはアホの、・・・彼女の手を掴むと力を注ぎこんだ。空間の崩壊よりも早く自らの肢体が崩れていくが、特段問題はない。少し時間が早まっただけだ。
「いい、これであんたはもう少しあんたを保っていられる。だから、早く糸を探しなさい。多分、わかるはずよ」
抗議をしようとする声にかぶせた。もう本当に時間がない。
「まぁ、あれよ。器ボーナス。ちょっとくらい人生で好い目見たって誰も文句言わないから。
ていうか、聖王家のやつらがナーガの血を引くなら、あんたもあたしの血を引いてるってこと」
そうしてあたしは彼女を放り投げる。ここの崩壊に巻き込むわけにいかなかった。
多分、彼女の力なら大丈夫だろう。念のためこちらの正真正銘最後の力も渡したのだ。
これで駄目なら、本当に化けて出てやらないといけない。
「・・・幸せになって、あたしの、大事な、娘」
空間がすべてなくなった。意識が溶けてゆく。眠りに落ちる前のような、穏やかな気分だ。どれほど振りだろう。もう眠い。ああ、でも、惜しむべくは、あの子が無事に―――――



3.アンコール

なにか大事なことを託された気がする。瞼が痛い。ちくちくと陽光が容赦なく降り注ぎ、あたしの安眠を妨害する。
もう少しで思い出せそうなのに、誰がが邪魔をする。誰だろう、少し頭上が煩い。だが懐かしい。どこかで聞いたことのある声だとそう思った。
目を開けた、日差しがまぶしくて、逆光になっている人物の姿はよく見えない。
少女と青年のようだ。少女は目を開けたあたしを見て酷く喜んでいる。感極まって泣き出したのか、鼻声だ。
とにかく起き上がろうと手を付くが、うまく力が入らない。バラバラだった身体が、ようやく繋ぎ合わさったかのようだ。動かし方がよく分らない。ぎこちなく格闘していると、青年が笑いながら手を差し伸べる。恐る恐るその手を取った。
「・・・おかえり」
パズルのピースがはまるように、その声はしっくりとあたしに馴染む。
ああ、この声を待っていたのだろうと、あたしは唐突に理解して、そうして微笑んだ。
「ただいま」



彼女の不在・終幕はひとりで・アンコール(2013/02/23)

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