ご注意!

・血+パロです。
・配役は以下の通り
 小夜ちゃん・・・ルフレ
 ハジ・・・ガイア
 ディーヴァ・・・ギムレー

・元ネタ的に流血注意です(作者の力量のせいで迫力はないですが)
・唐突に始まり唐突に終わる
・個人的に一番好きな血+のエピソードなのだが・・ぐぬぬ(察してください)
・作者はガイルフをいろいろと誤解しています



ルフレの体格の倍はありそうな化け物が、その声帯を震わせる。彼女の身体を嬲ろうとした鋭い爪は、しかし彼女を守る盾に阻まれた。
「ルフレ」
盾が、ガイアが声を出す。いたずらっぽく笑った彼にルフレははいはい、と仕方なしに別の化け物を倒したばかりで深々と刺さっていた剣を引き抜くと、化け物の横に回り込み袈裟斬りにした。
鋭い斬撃音が響き、化け物が歪んだ目を見開いた。・・・果たしてそれだけの知性が残っているのかはガイアにはわからなかった。だが化け物は、表現するならば『驚愕』としか言いようのない色を浮かべ、胴体が二つに分かれたまま絶命した。絶命した化け物の身体は、傷口からどんどん石に変わっていく。
ルフレは無言のまま、奴らの血が滴るほど付いた剣をその場で何度か振るっていた。どうやら刀身に付いた血を拭いたいらしい。そうこうしているうちに、石化した敵の姿が彼女の目に入ったようで、痛ましげに目を反らす。

左右は木々が多い茂っているが、ここだけ、先ほどまで凄惨な殺し合いがあったこの場所だけは人が通りやすいように広く開けていた。おそらく、この先に続く小さな村のためなのであろうが、昨晩まで一週間ずっと降り続いた雪のために、この道を使う人などいなかった。
それをいいことに、ルフレとガイアは敵の目を誤魔化すように移動を行っていたのだが、どうやら敵のほうが一枚上手だったらしく、道すがら襲撃されてしまった。その結果がこれだ。
敵をすべて倒したために今のところは問題はなさそうだが、この場でじっとしているわけにもいかない。おそらくこの先の村を目指しているのに気付かれている。左右の森にしばらく逃げ込むのが得策か、とガイアは考えを巡らせた。
今後のことを伝えようとガイアはルフレを見て、そしてぎくりと身体を揺らした。
彼らの亡骸を前に悼むように指を絡ませるルフレに、声が掛けられなかった。

辺り一面を白く覆い尽くす雪の白。彼ら化け物のどす黒い赤い血がその白の上にぶちまけられている。雪国特有の鈍色をした重たく厚い雲が酷く近くに圧し掛かる。白と、赤と、灰だけで構成された世界の真ん中に、祈る小さな背中。だが、その背中は彼らの血を被り醜く染められていた。彼らの亡骸の目が、彼女を見ている。お前のせいだと詰っている。
喉の奥にこみあげてくる何かを振り払うように、ガイアはルフレの傍に走り寄った。その勢いのまま、腕を掴んでこちらを向かせる。突然の彼の行動に驚いたらしいルフレが、ガイアの焦燥した顔を見て目を丸めた。
「どうしたの」
それに応えずガイアは彼女の顔面を布の切れ端で拭った。強引に拭ったせいで、痛いと抗議のくぐもった声が聞こえたが、それはあえて聞こえない振りをした。
「・・・これで、剣を拭え。終わったら、行くぞ」
この辺りの主要な産業の一つとして、豊かな森林資源を使った木材の生産があるのだから、木こりのための小屋くらいあるだろう。ただこれだけ雪深い地域だ、冬は使用者はいないだろう。そうガイアは当りを付ける。彼女の血に塗れた身体を拭ってやりたかった。叶わぬならば、せめて、彼女の休息に足るだけの安全な寝床を。寒さに怯えず、敵の心配のない、暖かで、穏やかな。
森に入っていくガイアの背中を追ってルフレは走り出した。
「あ、まって、ガイア」
追いつく直前、彼女の足は雪に取られ、その場に倒れこむ。寸でのところでガイアがその腕を取った。
「・・・そろそろ、休眠期、かしら」
眠たげに彼女は瞼を擦った。
彼女と、彼女の敵は三年間の活動期間と、三十年間の休眠期間を交互に過ごす種族だ。繭を作り、その中で休眠期間を過ごす。さながら、蝶に羽化する前の蛹だ。だが、彼女は自分たちがそんなに美しいものにはなれないことを知っている。眠りが覚めたら、途端に始まる彼女らの間での生存競争、優れたものが生き残る――殺し合いを繰り広げる。ガイアはそんなルフレの傍らにあって、彼女が三十年の眠りから目覚めるのをいつもじっと待っている。もう何度繰り返したかわからなかった。
「今回も、駄目だったってことね。・・・ごめんなさい、ガイア。また、待たせるわ」
今回の活動期間の間に彼女の敵を討ち果たせなかったことを、ルフレは謝罪する。
眠気をこらえながら、足を叱咤し彼女は必至にガイアに縋り付いた。彼女の指がガイアの腕を強く掴む。
「ごめんなさい、腕、借りてる。跡が残っちゃうかも。あたし、力、強いから」
苦笑を漏らすルフレをガイアはただただ見つめていた。そんなことは謝ることではない。むしろ、もっと跡を、つけてくれればいいと、ぼんやり思う。
ガイアは彼女の荷と自らの荷をまとめて背中に背負うと、ルフレのひざ裏に腕を入れ、抱き上げる。小柄な彼女の身体はガイアの腕の中にすっぽりと収まった。普段よりも近い彼の顔に、ルフレは赤面し足をバタバタと動かす。
「おい、お前、眠いんじゃないのか?暴れるな落とすぞ」
小さな脅しにルフレは抗議の声を上げる。
「ちょ、大丈夫よ!下ろして、歩けるわ!」
「うるさい、眠たいお前に付き合ってたらこっちが襲撃受けるわ。まさかオレの命なんてどうでもいいなんていうんじゃないだろうな?」
半ば強引に彼女を黙らせる。しぶしぶといったようにルフレは黙った。ただ、その顔はガイアのほうを向くまいと必死にそっぽを向けられていたが。
「おい、顔をオレの身体に寄せろ。・・・歩きにくい」
「・・・女の子に密着されたいだけのくせに、この変態」
「落とすぞ馬鹿」ガイアは溜息をついた。「それにオレの趣味はもっとおっぱいの大きいエロい感じの大人のお姉さんだ。誰がお前みたいな幼児体型に欲情すっかよ。せめてもう少し成長してから心配しろこの馬鹿」
言い終わると同時に彼女は、自らの頭を勢いつけてぶつけてくる。衝撃にガイアが咳き込んだ。
「うるさい、報いよ。一応気にしてるんだから、あんまり言わないでよ・・・馬鹿」
「へいへい」
笑うと、ルフレはガイアの服を掴む。身体を固定しているつもりなのだろう。ガイアはより強く彼女の身体を抱え込んだ。彼女の表情は彼女の腕に隠されていて見えない。
「また、眠っちゃう。また、ごめんね」
ぽつりとルフレが呟いた。彼女が休眠期に入る前、何度となく繰り返した会話だ。
ルフレが語るのを聞いたことはないが、彼女はガイアを伴と、シュヴァリエとしたことを今でも悔いているのだろう。大怪我を負ったガイアを救う方法がそれしかなかったのだとしても。おそらく、彼女は一生それを口に出すことはないだろうが。ただ、ガイアは彼女のシュヴァリエとなったことを後悔していなかった。むしろ嬉しかったのだ。彼女の眷属となれて。彼女を、彼女の戦いを全て知る、たった一人となれたことが。

雪のせいか、しんと静まり返る森の中を、ガイアは一人歩く。吐いた息が白く凍った。
一晩の宿なら小屋でもよかったが、休眠期の彼女を守るにはもっと森の奥深く、人目に付かない場所のほうがいいだろう。そう判断し、森の奥に進む。
ルフレは眠気を堪え、声を出した。
「ガイア、約束して」
「んー、なんだ?」
適当な洞窟が目に付き、ガイアはそこに入る。辺りの木を二、三本倒しておけば、入り口も塞げるだろう。
お誂え向きにあった奥の広い岩の上に自らの上着を敷き、彼女の身体を横たえた。水を用意しようと彼女の傍を離れようとしたガイアの指先を、ルフレは掴む。
「ねぇ、あたし、もう眠いの。だから、聞いて。そして、お願い、約束して」
途切れ途切れにルフレは声を出す。一息ごとに小さくなっていく彼女の声を耳に残そうと、ガイアは彼女の身体を覆うように跪く。彼女が必至に吐く吐息が、ガイアの唇に掛かった。
「あの子を、ギムレーを、倒したら。・・・あたしを、殺してね」
瞼の落ちかかったルフレには、そのときのガイアの表情は見えなかった。
「・・・ああ、必ず。約束だ」
ガイアがそう声を発したのを確認して、ルフレは穏やかな笑みを浮かべると、そのまま眠りに落ちた。
荒い息から、静かな息に変わっていくのを、ガイアは彼女の口元に近づけたままの唇で感じている。そのまま下に動かせば、彼女の唇は簡単に奪えるが、ガイアはそれはしなかった。できなかった。
せめてもと、閉じられた彼女の瞼に唇を落とす。ガイアの腕を掴んだままだった手を、彼女の腹の上で組ませてやった。
ルフレの背中から、白い糸が出てきて彼女の身体を覆い、繭を作り始める。三十年の眠りについたのだ、とガイアはそれをぼんやりとみていた。
次に起きたときは、どこへ行こうか。彼女はあれで寒がりだから、暖かな、南国に行くのはどうだろう。
三十年後、今と変わらぬ姿を保った彼女が陽の光の元でにこやかに笑顔を向けていた。
(・・・ガイア!ねえ、海よ!)
はしゃぐ彼女は少女めいていて、血なぞ似合わない。だがそれは叶わない。
押しつぶされそうな雲の下、剣を纏い、自らのたった一人の妹をその手で討つまで血で濡れた道を歩む、それが彼女、ルフレに許されたただ一つの進むべき道だ。
彼女と彼女の妹。ルフレとギムレー。翼手の女王。人の姿をした、人ならざる種族。呪われた生き物。子を孕むため、次世代を残すため、互いが互いを殺し合うよう運命づけられた双子の姉妹。ガイア自身も、彼女の血を受け、人ではなくなってしまった。彼女らが人ならざる通りに、利己的な化け物としての心しかもっていなかったのであればここまで思い悩むことはなかったというのに。だが、彼女はどんな人間よりも人間らしい優しい心を持ってしまった。それが彼女を苦しめている原因だというのに。

この繭の中だけは良い夢を、とそうガイアは祈った。



せめて眠るあなたは穏やかであれ(2013/03/03)
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ディーヴァ側(ギムレー)側シュヴァリエ達がギムレー教団とペレジアの皆様、フェリアの皆様が赤い盾、クロムさんがカイ、エメリナさんがジョージ、フレデリクはデヴィッドというところまで考えた。アル中フレデリクさん。ただそうするとリクがリズになってしまううーん。ヴァルム大陸の皆様はシフかなぁ・・。

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