■ご注意
・ぜつえんのテ!ン!ペ!ス!ト! パロ!!完全に1話ぱくって・・・パロってる
・タイトルセンスはない
・ふりはたくん→ふりはたちゃん
・バスケログアウト
・死ネタです
・28歳むしょくちゃんとけっこんしたい
・配役は以下の通り
  よしの:くろこっち
  まひろ:あかしっち
  はかぜちゃん:ももいっち
  あいかちゃん:ふりはたっち(女体化)
  てんぱりすとさもんさん:いまよしっち
  あおみねっちは中の人つながり
  くさりべのみなさま:とうおうのみなさま
  28さいむしょくちゃん:かんとくっち

もうなんでもOKのかた下へどぞ






「降旗さん、おはようございます」
黒子テツヤが自転車の荷台に乗った降旗光樹に声をかける。運転手である彼女の従兄の赤司征十郎がスピードを緩めた。
「赤司家のご子息が自転車ですか」
と半ば茶化すような言動をすると、赤司はその裏腹に、よく聞いてくれたとばかりに誇ったような笑みを浮かべる。
「光樹が乗ってみたいというから」
どうやら彼なりの自慢らしい。そうですか、と辟易とした笑みを浮かべた。
黒子のことをまるで無視しているかのような降旗が、赤司に先に行くよう促す。
「征十郎、早く行かないと遅刻しちゃうよ」
「わかった、わかった。光樹、テツヤに挨拶しなくていいのかい」
「黒子さんと親しいのは征十郎だけでしょ?私、仲良くないし」
つん、と光樹はその愛らしい顔立ちを歪めてそっぽを向いた。
「相変わらずテツヤのことが嫌いなんだな。・・・少しは仲良くする努力をしろ」
「なんで私が」
お決まりの口論が始まりそうな気配を感じ、黒子は慌てて仲裁に入る。
「まぁまぁ落ち着いてください。征十郎も、降旗さん送ってくなら急がないと遅刻しますよ本当に」
降旗の通う中学校は、黒子と赤司が通う高校より先にあるのだ。
その中学に降旗を送り届け、自らの高校まで往復して、自転車で約15分というところ。朝8:30に始まるホームルームまではあと20分もない。
荷台に乗ったままの降旗が自らの腕時計を見る。
「あ、本当だ。急がないと『従兄の赤司家のお坊ちゃま』」
ワザとらしく続柄を強調した物言いをすると、赤司は溜息を付き自転車のペダルを踏み込んだ。
徒歩の黒子からはどんどん距離が離れていく。角を曲がるその時、降旗が黒子を見た。

彼女が殺されたのは、それから一週間後のことだった。



太平洋の大海原に、猛スピードで進むクルーザーがある。
今吉翔一が、もとより細い目をさらに細めてどんどん遠ざかる、小さな無人島を見つめていた。
考え込むように腕を組んだ今吉に、不安になったらしい青峰大輝が声をかける。
「今吉サン、大丈夫なんすか?あれでさつき、結構しぶといっすよ」
「アホかこれ以上なんてあと宇宙に放り出すくらいしか思いつかんで」
「・・・それくらいやってもアイツ死なねえんじゃねえのか・・・」
青峰のつぶやきに、思わず今吉は同意しかけてしまい、頭を抱えた。
「青峰、お前姫さんの幼馴染やろ。あんま化けモンみたく言うなや」
「事実だししょうがねーだろ」
言い切る青峰に今吉は溜息をついた。
傍に控えていた若松がすぐさま胃薬を用意する。今吉はそれをコップの水で一飲みした。すぐに効くはずもないが、薬を飲んだという事実が今吉のきりきり痛む胃を落ち着かせた。
「ともかく、計画を進めるで。一番の障害である姫さんは樽詰めされて無人島や。大丈夫、計画はすべて順調やで」



その無人島の浜辺に無造作に置かれた樽から、今一人の少女が転がり出てきた。
這い出ようとしたときに頭をぶつけたのか、目元に痛みから浮かんだ涙がにじむ。
「もう、今吉さんてば!もうちょっと丁寧な捨て方してくれてもいいじゃない!」
立ち上がり、ついた砂を払う。
くるりと一回りし、自らの姿を検分した。
「うん、ワンピースか。なかなかセンスいいじゃない。まあパンツ一丁で放り出されなかっただけましか。
だけど困ったなぁ。無人島じゃまともな供物は手に入らなさそうだし、これじゃあ流石の私でも碌な魔法は使えないかも・・」
そういって桃井さつきは仁王立ちをして腰に手を当てた。
「今吉さん達・・・今回はほんの少し、ほんのすこぉーし、だ、け!油断しちゃったけど!
こんなので私に勝ったと思わないでくださいね!私はしぶといんだから!
大ちゃん、あのガングロザリガニめ!後で覚えておきなさいよ!三倍返ししてやるんだから!!」



「青峰、お前顔色悪いで」
「いや、なんだ、寒気がする・・・なんだこれ」
寒気に背中を震わせていると、若松が風邪か、と呑気に声をかける。
桜井良がおどおどしながら差し出した毛布を素直に受け取ると、青峰は肩にかけた。
クルーザーは、自らよりも数倍大きな船の傍に船体を寄せた。
「母船についたようやな。さっさと日本に戻って絶園の樹復活の儀式を進めるで」



日本でも有数の名家である赤司家の嫡男、赤司征十郎と降旗光樹は従兄妹にあたる。彼らは非常に仲が良く、本当の兄妹と言っても違和感がないほどだった。
降旗の両親は幼い頃に不慮の事故によって亡くなっており、一人残された降旗を不憫に思った、彼女の母親の姉である赤司の母親が、降旗を引き取ったのだ。

そんな彼女が殺されたのは一年前のある11月、彼女の誕生日の前日のことだった。何気ない日々が続くと信じていた矢先のことだ。
事件を受けて動いた警察が下した判断は、一般的なものだ。すなわち、有数の豪邸である赤司の屋敷に、金目のものを見つけに入った強盗が、赤司夫妻と屋内にいた降旗に発見され、口封じのために彼らを殺した。事件当時、一人息子の赤司征十郎は部活動の合宿に出かけており、あくる日、帰宅した赤司が屋敷内の惨劇の発見者となった、というものだ。
赤司から連絡を受けて、黒子もすぐに赤司の屋敷に向かった黒子が目にしたものは、彼女の身体を象った不器用な閉曲線でしかない。彼女の死をどこか信じられないまま、黒子は赤司の元に向かった。
自室で俯く彼は、彼の形をした抜け殻のようだった。今にも後にも、あそこまで憔悴した姿は見たことがない。

それから彼が「テツヤ、ちょっと僕は出かけてくる」という挨拶をして、黒子達の前から姿を消したのは半年後のことだった。
若葉多い茂る、初夏のある日のことだった。

降旗は今、両親が眠る墓の下に共に眠っている。もうすぐ一周忌であるが、赤司の両親は親族が執り行ったようだが、共に命を失った降旗の法事は誰も行わなかった。
勿論黒子自身も執り行う立場にない。その立場にあるのは、赤司の嫡男であり彼女の従兄であり、もっとも親しくしていた赤司征十郎だけだ。
その赤司は、半年も前から行方不明で、このタイミングで戻ってくるかとも思ったが帰ってきている気配はなかった。
仕方がないと黒子は溜息をつき、学校帰りになけなしの小遣いで用意した花束を持って降旗の家の墓に向かった。
墓場特有の、下界から切り離された湿った空気の中を、寺の桶と柄杓を持って歩く。一番奥の、こじんまりとした、ともすれば忘れられてしまう様な暗くて狭い場所に墓はある。手入れする人間のいない墓は、薄汚れていて雑草も生えていた。あらかじめ用意しておいた軍手や雑巾で、ある程度掃除をすると、そこそこ小奇麗にはなったが、元よりの場所の悪さのために湧き出る寂れた雰囲気は消すことはできなかった。
黒子は持ってきた花束を飾る。小遣いが許す限りの仏花を用意したが、周りに飾られている花束に比べるとどうにも貧相だ。
(降旗さん、許してくださいね)
彼女は許してくれないであろうが、それでも謝罪をするのを止められなかった。

(許しません、黒子さん。謝罪するなら、一緒に誠意も見せてくれないと)
(・・・わかりました。降旗さん。今度、弁当を作ってきてもらいますよ)
彼女はあれで案外食事につられるタイプだった。中でも黒子の母親が作る唐揚げが好きなようで、唐揚げのためなら黒子と結婚だってできるとよく豪語されたものだ。
(あのときは赤司君が怒っちゃって大変でした)
今日のお供えとして唐揚げを用意すればよかったか。でもまあ、そんなものを用意したところで烏に漁られ悲惨なことにもなりかねないかと苦笑する。
線香を用意しようと鞄を開けた。
「あ」
線香本体すぐにその姿を現したが、火をつけるためのライターがどこにもない。どうやら忘れたらしい。
健全な男子高校生である黒子は喫煙の習慣なんてものはないから、仕方がないだろう。
近くのコンビニに行こうかと腰を上げようとしたところで、隣に人が立っているのに気付いた。
「ね、ライター忘れたの?貸してあげよっか?」

その人は茶色い髪をショートカットにして、前髪をピンでとめていた。スレンダーな身体を際立たせるような黒いワンピースを纏っている。彼女の華奢な身体に余る大きなショルダーバックが違和感をぬぐえない。女性なのはすぐに分かったが、このような場所に何の用があるのだろう。黒子と同じように墓参りというわけではなさそうだった。通路は小石が敷いてあるのだから、一歩歩けば石の擦れる音がするはずだ。しかも彼女はそのすらりとした足をロングブーツで覆っている。ああいったヒールの靴は、普通に歩いていても足音が目立つものなのではないのか。だが彼女は、足音を立てずに黒子の背後に立ってみせるという芸当をやってのけている。これではまるで。
(怪しいものです、と言わんばかりじゃないですか・・・)
背中に冷や汗を感じながらも、差し出す女性の圧迫感に黒子はライターを受け取らざるを得ない。
「ね、ここ、降旗光樹ちゃんのお墓だよね。ならばあなたが赤司君?聞いてた話と違うなぁ。赤毛だって聞いてたんだけど、キミは違うね?
『クロガネ病』のことについて、ちょっとお姉さんとデートがてらお話しよう?」
何気なく女性がしゃべり続ける。黒子の中に焦りが生まれた。彼女が口走った『クロガネ病』。なんのことだか黒子にはわからない。ただ、何かに巻き込まれたような焦燥感だけは本物だった。
さり気なく退路を確認するが、ここはあいにく行き止まりで、外に出るにはこの女性を正面突破する以外になさそうだ。
女性の様子を伺うが、ニコニコと人好きのする笑みを浮かべているのはポーズのようで、黒子になぞ逃げる隙を与えてくれそうにない。
話さないとここからは逃がさない、と無言の脅迫に黒子はひとまずここを切り抜けるため、抵抗の意志はひっこめる。
「・・・赤司君は行方不明です。この町に戻ってきていません。ボクは赤司君の友達の黒子テツヤです」
黒子がそう語ると、女性は鞄に納めていた手帳を取り出した。なるほど、キミね。そう呟いて手帳を閉じた。
様子の変化に黒子は後ずさる。距離を開いたほうがいいと本能が告げていた。
「ライター」
女性が言う。黒子はきょとんとした。
「ライター、折角渡したのに。使わないの?ライター使って、お線香あげるくらいの時間は待ってあげるから」
彼女の言葉に肝が冷えた。お供えが終わったら、彼女は自分を捉えるつもりでいるらしい。
思わず立ち上がって逃げ出そうとするが、あえなくそれは阻まれた。彼女は黒子の二の腕を掴み、取り出した拳銃を米神にピタリと当てている。
肌から伝わる冷たい金属の感触に、思わずぞっとなる。プラスチックのモデルガンなどではない『本物』の感触に背筋が凍った。
「自己紹介がまだだったわね。私は相田リコ。花も恥じらう17歳。趣味は料理と正義の味方。よろしくね」
「・・・ボクをどうするつもりですか」
「あら、黒子君。キミ、肝が据わってるのね。普通は拳銃突きつけられてそんなこと言えないのに」
「・・・もっと突飛なことする電波が、身近にいるものですから」
言い終わった瞬間、相田の身体が吹き飛んだ。どうやら横から蹴りを入れられたらしい。勿論黒子ではない。黒子にはそんな軽業師のようなことができる身のこなしも、喧嘩のスキルも存在しない。
目の前に起きた出来事に茫然としていると、相田の身体に蹴りを入れた人物が身を起こした。姿形から頃合いは少年、髪の色は、鮮烈な赤い色。
黒子もよく知る人物だった。
「赤司君!」
思わず状況を忘れ、詰るように叫んだ。

「キミ、半年も何やってたんですか!降旗さんの一周忌もほっといて、勝手に行方不明になって!」
「テツヤ、折角危ないところを救ってやったのに、第一声がそれかい?いい加減にするんだ」
「そんなことはどうでもいいです、キミ突然消えたら突然現れて!もっと常識を勉強してくださいこの電波!」
「言わせておけば僕の悪口とは。半年も見ないうちに良い度胸になったな、テツヤ」
「ああ、『電波』を悪口と受け取るだけキミにも常識はあったんですね。安心しましたよ、僕らが使う日本語が通じて」
「一応僕は生まれも育ちも日本だからね。常識の一つや二つは嗜みとして認識しているよ」
「良かったです。キミは僕たち一般人とは斜め上の五次元あたりに生きていると思っていましたから。四次元世界に生きるボク達の常識では計り知れないことを危惧していたんです。よくキミのご両親は黄色い救急車を送らなかったのか何度も疑問に思いましたけど」
突然始まった口げんかに相田はイラつきを覚えて拳銃を向けた。ためらわずにトリガーを引く。
いち早く気付いた赤司は黒子を蹴り倒し、自らは寸前で銃弾の軌道からのけぞった。足元が青く光る。
すると相田の元に一瞬で移動する。飛んだと言ってもいい。だが、明らかに人間では無理な跳躍だ。助走もなしに目算でも十メートル以上の距離を飛んだのだから。
赤司は右手に鋏(ただの文房具だ)を構え、刃を問答無用で突き出した。相田はそれを寸前で避ける。
チッという舌打ちが相田の耳に届く。赤司が本気であることを知り、手加減しようとしていた相田の余裕がなくなった。
拳銃を構えて発砲する。街中での使用を考えているのかサイレンサー付のそれは、火薬の爆発する派手な音を消していた。
すると赤司はまた、先ほどの不自然な跳躍を見せて銃弾を回避する。だが、今度はよけきれなかったらしく、彼の頬をかすっていた。滲む血を手の甲で無造作に拭うと、再び相田に向き直った。相田はすでに姿勢を整えている。その姿勢だけで、黒子や赤司たちなど逆立ちしても叶わない、数段上の技術を持った人間であることが知れる。
「赤司君、ここはとりあえず彼女に従ったほうがいいのでは」
「何を言っている?テツヤ。この女は光樹の墓を荒らしたんだぞ?それだけで万死に値する」
思い込むと頑固な赤司の性格は知っていた。黒子は溜息をつく。こうなった赤司は止められない。
先ほどの相田の台詞や行動から、彼女は黒子と赤司の命を奪うつもりはないらしいことは分っている。黒子を殺すつもりなら、ライターを渡すなどという遊びをせずにすぐに持っていた拳銃で黒子の米神を打ち抜けばいいのだ。赤司と口喧嘩を始めたときに、割って入るように銃弾を放ったのもそれだ。本気で殺すつもりなら、まずは動けなくしてから、足を打ち抜いてから殺せばいい。ただ、彼女はそれをせず、まるで無視されたことが腹立たしいというばかりに牽制しただけなのだ。
「僕の邪魔をする奴は女でも殺す」
「ちょ、赤司君、今のその台詞、洒落になりませんって」
黒子は慌てて赤司を止めようとするが、赤司は構わず跳躍を見せた。足元が青く淡く光るとはめていた指輪が脆く砕け散った。黒子がそれを疑問にはさむ間もないほどの刹那の後に、相田の目元に向かって赤司は鋏を繰り出した。
「目つぶしとは、穏やかじゃないわね・・・!」
相田は赤司の胸元に潜り込むと、持っていた拳銃を捨て、服を掴みそのまま投げ飛ばした。飛んでくる赤司の身体を受け止めきれずに、黒子は下敷きになる。
赤司の元に駆け寄り彼の腹を片足で踏みつける。新たに取り出したナイフを彼の手首に向けた。
「・・・チェックメイトってやつね」
この女はナイフを振り下ろすのをためらわない。
そう黒子は理解し、その瞬間手元にあった石を掴み相田に向かって投げた。幸いなことにここは砂利道だ。ちょうど良い小石には事欠かない。
突然の黒子の反撃は相田の姿勢を崩すまではいかなかったが、一瞬の隙を作ることは成功した。そしてその隙を赤司は見逃さない。両手を使って腹の上の彼女の足を掴み、押しのけた。
流石に片足だけでバランスは取れないらしく、相田は倒れこむのを防ぐために後ろに飛びのいた。そこでナイフを構える。
「女性の足を開かそうなんて、どんな躾けされてるのよ・・・!」
「あいにく両親は土の中だ。文句があるならあの世でどうぞ?」
「さっきも思ったけど嫌味な子ね。性格最悪」
「褒め言葉として受け取っておきましょうか」
にこりと笑って赤司が相田に向かって駆け出した。青い光の跳躍はもう使わないらしい。
相田と切り結ぼうとした瞬間、地震が起こった。

真っ黒な揚羽蝶が、隣に寺の敷地を割って出てくる。
もはやそこに立っていられないほどの振動に、赤司が倒れこんだ。相田はそれでも何とか中腰のまま立っている。
墓石が崩れる。ぶつかるのを危惧して距離を取ろうとするが、行き止まりのため容易ではない。
次の瞬間、墓石がめくれ上がるかのように立ち上がった。頭上に重量のあるはずの墓石が躍り上がる。どうやら地震によって地殻変動が起きたらしい。
つぶされると思った瞬間、赤司が黒子の腕を引いた。とりあえず相田の元まで逃げる。そこは通路の関係上、他よりスペースを取った場所だったからだ。
次の瞬間、山が出来たと黒子は錯覚した。それも仕方がない、いきなり影が落ちたのだから。
思わず驚きに目を見張り、黒子は影を作る原因を見上げた。
それは木の根が複雑に絡んだ、大きな球体だった。

球体が地面から産まれ出ようとしている。鎖がその周囲にまきつきそれを押しとどめようとしているようだ。
だが、球体のほうが力が強いらしく、黒い揚羽蝶をまとわりつかせたまま、とうとうそれはその全容を宙に晒す。晒すとともに、地震はピタリと収まった。
浮かんだそれは、きらきらとした何かを盛んに降らす。雪のようだとふと思った。
相田は呆然としながらも、いつの間にか取り出していたデジタルカメラで何枚も写真を取っていた。
そしてすぐに携帯電話を取り出し、どこかに電話を掛け、慌てたような叫びを上げた。
「果実が出たわ!急いでこの区画を整理して!・・・え?私は大丈夫。偶然魔法使いが傍に居たから。とにかくそちらにすぐ向かうわ!」
相田はショルダーバックをふんだくるようにとると、赤司と黒子のことなど目に入らぬように慌てて敷地の外に向かった。急いでかけられたエンジンの音に、とりあえず窮地を潜り抜けたことを知る。赤司をちらりと見ると、彼は肩をすくめた。

『果実』は宙をゆっくりと進む。まとわりつく黒い揚羽蝶が尾を引いて、飛行機雲だと黒子は思う。どこかに向かって誘導されているかのように、迷いなく進んでいく。どこか西のほうにむかっているようだ。
それを呆然と見つめながら、黒子はゆっくりと立ち上がった。
「赤司君、もちろん、説明してくれますよね」
「半年前に行方不明になったことか?」
「・・・・・・・」
なおも軽口を言う赤司に呆れ、無言で半目を向ける。
赤司は苦笑してポケットから木彫りの人形を取り出した。頭に釘が刺さっていた。それに向かって赤司はしゃべりだした。
「・・・ということなんだが、説明してかまわないだろうか?さつき」
この後に及んで冗談を言っているのか、と黒子は苛立ちを覚えたが、すぐにその苛立ちは霧散した。
木彫りの人形から可愛らしい少女の声が聞こえてきたのだ。
『うーん、しょうがないなァ。信用できる人なんだよね、赤司君が』
「その通りだ。彼は黒子テツヤ。僕の友人だ」
『黒子テツヤくん・・・テツ君ね!よろしく、私は桃井さつきです。トランシーバー越しの挨拶でごめんね。今ちょっと無人島にいて日本に帰れないの』
驚きに身をすくめていると、赤司は苦笑した。
「とりあえずテツヤ。さつきに挨拶してくれ」
促されるままとりあえず挨拶する。木彫りの人形は、その向こうから楽しそうな少女の声を相変わらず伝えていた。



「つまり、桃井さんは今どこかもしれない太平洋上の無人島に囚われていると。その周囲は桃井さんを謀った一族の人によって結界が張られていて、外部からの観察はできない状態なんですね?
で、桃井さんを排除した一族が何をやらかそうとしているのか、場合によっては止める方向で動いてくれるよう赤司君に頼んで、そのかわりに光樹ちゃんを殺した犯人を桃井さんが見つける、と。
そういうことでしょうか?」
『その通り。テツ君理解が早くて助かっちゃった』
人形がはしゃいだ声を出す。黒子の理解であっているらしい。
赤司の手の中にある、どこか不気味な木彫りの人形は、中に彼女の血をしみ込ませてあるらしい。トランシーバーの向こう、某黄○伝説の濱○もびっくりな、無人島生活二十四時を繰り広げる彼女が、似た形のトランシーバーを持っているらしい。二つで一つのそれが、三百キロ彼方の洋上の孤島と現在地を繋ぎ、声を届けているとのことだ。これも彼女の言う『魔法』のキセキによるものなのだという。
彼女たちの一族――『桐皇』と自分たちをそう呼んでいるらしい――は昔からずっと『はじまりの樹』という神木を守る一族なのだという。その『はじまりの樹』に人間の英知によって作られた製品、『供物』を捧げることで彼女らは魔法のキセキを行使できるのだと語った。というよりそういうものなのだと理解させられた。先ほどの相田との戦闘で赤司が見せた不自然な跳躍と青い淡い光は、彼が魔法の力を行使したものだった。
いつの間に魔法使いになったのか、と問うてみたが、赤司は苦笑してそれを否定した。どうやら、一族内に不穏な動きがあることを承知していた桃井が、不測の事態のために各地にあらかじめ誰でも簡単に魔法を行使できるような道具を隠していたのだという。赤司はそれを『魔具』と話していた。魔具は桃井の力によって魔法を使えるよう、術を懸けられているのだが、当然それは回数制限があり、耐容を超えると先ほどの指輪のように崩れて消える。赤司はこの半年間、桃井の指示に従い日本各地に隠された魔具を探し回る旅に出ていたのだという。
その魔具を使って降旗が殺された当夜の情報を集めることが目的だ、と赤司は語った。
とりあえずおもちゃや何かの類ではないことを黒子は理解した。だが、これで解決した疑問は少ない。まだより重要な二つの疑問が残っていた。
すなわち、黒子を、というより赤司を襲った女性の正体と、女性の目的について。
残りはあの突然地面に現れた謎の球体のことだ。
赤司は黒子の顔色を見て察したのか、苦笑する。おもむろに話し出した。
「とりあえず、光樹の墓の前で騒ぎを起こしたあの女からだ」
彼にとってみれば黒子が襲われたということより、降旗の墓標の前で騒動を起こしたことのほうが重要なのだろう。優先順位付けに今更疑問をはさむ必要もないが、どこか釈然としない気持ちを抱くが、黒子は黙って赤司の言葉を待った。
「詳しいことは知らないが、追われている。どうやら政府の人間らしい」
「え、赤司君、キミ明らかに狙われてましたよね?知らない人に追われるほど悪事に手を染めたってことですか?」
「違う。―――それはお前のもう一つの疑問のほうだ。・・・地面から出てきた樹の『果実』は見たか?」
『果実』とはあの空を飛んだ巨大な球体のことだろうか?黒子が息を呑むと、赤司は満足気な表情を見せる。あれがなにか関係しているのか?
『赤司君、ここからは私が説明するね』木彫りの人形から少女の声が告げた。『さっき身内で不穏な動きがあるっていうのは話したよね。あの『果実』が『不穏な動き』の正体なの』
黒子は無言で続きを促した。
『あれは『はじまりの樹』に対を成す、『絶園の樹』の果実。昔、『はじまりの樹』が倒し、封じたはずの邪神なの。一族のお馬鹿さんが復活させようとしてるんだけどね』
「さつき、話すより見せたほうが早い」
『そうね・・・悪いけど赤司君、テツ君に街を案内してあげて』
ああ、と赤司は通信をひと段落させたのか、人形をポケットの中に仕舞い込んだ。すぐに黒子を促した。
しばらく歩くと、電柱にもたれかかるようにしている人の姿が見える。五十歳ほどのサラリーマンに見えた。体調が悪いのかと黒子は走り寄る。肩に手を置こうとした瞬間、
「触るな!」
赤司が鋭く叫んだ。
それに驚き、黒子は手を跳ねさせる。サラリーマンは、身体を残った渾身の力で反転させた。先ほどまで影に隠れていた部分が白日の下に晒される。
その、ありえない光景に思わず息を呑んだ。
「赤司君、これ・・・!」
思わず後ずさりしてしまったのは、仕方のないことだろう。年齢相応に老化を隠せないその身体は、しかし、半分を金属に覆われていた。しかも残りの半分もみるみるうちに金属が犯していく。唯一自由に動く眼球が、必死に助けを求めて黒子を追った。だが、黒子が彼の救済方法を見つけるよりも、金属が彼の身体を覆う方が早かった。
「赤司君、これは一体どういうことですか?!」
「『黒鉄病』――あの女が言っていただろう?それだ」
クロガネ病。たしかに赤司はそう発音した。思い返せば、たしかにあの女性も最初にそう言って『話を聞きたい』と言っていたのを思い出す。
赤司のポケットに入ったままだった人形がくぐもった声を上げた。
『黒鉄病は、絶園の果実が目覚める時に生き物に起きる現象なの。果実は全部で五個埋まっていて、それらすべてが日本国内に埋まっているわ。さっきので絶園の果実は三個目。先に目覚めた二つのときも、同じようにあらゆる動物、植物がその身体を金属化させていることがわかっているわ』
赤司が人形を取り出していた。黒子が桃井の声に耳を傾けていると、赤司はおもむろに脈絡のないことを話し出す。
「テツヤ、最近九州と北海道のほうで立ち入り禁止地域が出来たことを知っているか?」
たしか今朝のニュースで似たような話を聞いたような気がした。ただ、こんな病気が蔓延しているのではなく、
「数か月前から始まった軍事演習のために立ち入り禁止だって聞いていますよ」
赤司はじっと黒子を見ている。それで黒子は理解した。
「・・・軍事演習っていうのは、嘘だったんですね。原因は、この、黒鉄病のため、でしょうか」
あったりーとどこかのんびりした声が聞こえる。言わずもがな、それは桃井の声だった。
黒子は辺りを見渡した。
隣は公園になっている。今の時間、学校帰りの近隣の小学生が元気に遊んでいるはずだが、はしゃぐ声一つしない。
改めて確認するまでもなく、彼らは全員地に倒れ、生物ではありえない、鉄にその身の色を変えていた。
見渡す限り広がる光景。確かに生きているのはその場では赤司と黒子だけだった。
置いて行かれたような静寂に、息を呑んだ。
「ボク達は、なんで平気なんですか」
人知れずつぶやく。赤司が答えた。
「この魔具のおかげだ。さつき曰く、これを近くにいれば、黒鉄病は防げるらしい」
『あ、黒鉄病は絶園の果実が引き起こす現象だからねー。はじまりの樹の加護の近くにいれば、大丈夫なんだよ!
赤司君、とりあえずテツ君にも魔具分けてあげて?』
かまわない、と赤司は持っていた装飾品のうち、ネックレスタイプのものを黒子に手渡す。首にでもつけていろということなのだろう。礼を言ってありがたく受け取る。早速首を通した。
魔具が基本的に装飾品なのは、それが加工されてできているもののうち、比較的手に入りやすく持ち運び安いという理由からのようだった。本当は技術の粋が詰まっている軍事兵器のようなもののほうがいいらしいのだが、ライフルやナイフなどこの日本では持ち運ぶのに少し厄介だ。だから各地に隠す魔具はアクセサリーになるのだと桃井は言った。
「鋏とか文房具でいいじゃないか」と抗議するのは赤司だ。多少、彼も女性の装飾品を大量に持つのは気恥ずかしいらしい。
『しょうがないじゃない、ホッチキスなんか大量に用意したらそれこそ他の人に怪しまれちゃう』
最もだと黒子は思ったが、黙っておいた。赤司に指摘すると少々面倒なことになるからだ。

しばらく街中を歩く。活気あふれる商店街だった見知ったはずの光景は、すでに一遍していた。
助けを求めて店の中に入ろうとする人間。だが、その寸前でその身を覆った黒鉄病は助けを求めるポーズを取らせたまま、その姿を固まらせている。彼らによって阻まれた自動ドアは閉じようと何度も動作を繰り返すが、彼らの身体に阻まれている。赤外線センサーが付いているはずだが、と思って、それからすぐに彼らがすでに金属と化してしまったためにセンサーが反応しないということに思い至った。
数軒先の本屋も似たような状況だろう。
黒子は思わず目を伏せた。日常が崩れ去っていることにいまだに追いつけていなかった。
そういえば、と思い出したように赤司は言う。
「テツヤのご両親は大丈夫なのかい?確か、市役所に勤めていたんだったね」
赤司は口を噤む。市役所もこことそんなに距離はない。当然、向こうの現状もここと変わらないだろう。専業主婦であった母親は当然市内に構えた自宅にいるだろう。この商店街から、元の墓場までの距離も離れていない。
「学校のみんなも、誰も金属化してしまったんです。・・・おそらく両親も。仕方がないことでしょう」
「お前の恋人も、そうなのか」
黒子は、自らの恋人について赤司に告げたことはなかったが、どうやら学校のクラスメイトの噂話を小耳にはさんでいたらしい。案外赤司にも低俗な部分があるのだと苦笑する。
「テツヤ、僕は一応お前の友達なんだ。心配の一つもするだろう」
「わかってますよ・・・。そうですね、ボクの彼女は、同じ市内に居たのですが、最近偶然遠くに引っ越してしまって。だから、黒鉄病にはなっていませんよ」
「遠距離恋愛というやつか。今回はそれが幸いしたな。・・・近いうちに再会できるよう協力する」
「ありがとうございます」
黒子と赤司は街を一通り見て回った。高台に上る。
小学校の校庭には放課後に遊ぶ児童が居るはずだが、時が止まったかのように子供の姿形をした冷たい金属が鎮座していた。避難しようとして、そこで力尽きたらしい飼い主と、逃げようとして飼い主のリードに囚われたまま絶命した犬。子供を守ろうとして胸に抱え込んだ母親。泣き叫ぶ口を開けたままの赤ん坊。車の運転席で携帯を抱えているのは、警察にでも電話をしようとしてのことだろうか。その電話を受けるはずの交番の警察官も、同じように床に倒れて金属になっている。
黒子は携帯を覗き込む。そこには『遠くに引っ越してしまった』彼の恋人の姿が映っている。
(明日11時に動物園前ですよ!お昼ご飯は、唐揚げを黒子さんのお母さんにリクエストしてくださいね。昨日からうるさいのは合宿行っちゃってますから、簡単な軽食を作っていきます。期待しないでまっていてください。すっぽかしたら、怒りますから)
メールの文面を読み返す。受信日は一年も前だった。何度も読み返したせいで、すでに暗記をしてしまっている。下スクロールボタンを押すと、上目使いで睨みあげる少女の写真が出てくる。『遅刻したら許さない』という表情のつもりだろう。
彼女の携帯電話は古かった。それは彼女が連絡用にと携帯を買い与えてもらうときに、居候である立場を慮って、家に余っていた携帯をそのまま契約してもらい使っていたためかもしれない。カメラ機能はかろうじてついているといったレベルで玩具レベルだ。当然、性能は良くなく、しかも彼女が自分で自分を取った写真のためにピントが呆け、手振れもしていた。鮮明な画像とは言い難い。だが、今になって思えばこれが世界で唯一彼女の姿を手元に止める唯一のものだった。
常にない表情で携帯の液晶を覗き込む黒子に、赤司は気を使ったのか何も問いかけてこない。それどころか数歩距離を開けた。手すりにつかまり街を見下ろしている。寒々しい金属と化した世界を。
『残りの絶園の果実が復活したら、正直この国・・いいえ、世界がどうなるのかわからない。すぐには復活しないだろうけれど、あまりのんびりことを抱えている暇もないの。お願い、テツ君も力を貸して』
桃井の懇願する声が聞こえる。それにとりあえず肯定を返すと、桃井ははしゃいだ声で礼を言った。

世の中の関節は外れてしまった。
シェイクスピアの劇作「ハムレット」の有名な台詞を思い出す。中学生になったばかりの彼女がよく好んで読んでいた。赤司には無駄に背伸びをして、と半ば馬鹿にされていたようだったが。彼女の愛読書が気になったのがきっかけで、自らも読書を趣味とするようになった。そのころにはもう彼女のことが、好きだったのだろう。

黒子は彼の恋人の写る画像に目を落とした。
彼女は黒鉄病にはなっていない。なぜならば、もう遠くに引っ越して、旅立ってしまっている。
―――赤司に話した内容は嘘ではない。だが真実でもなかった。

液晶が映し出す画像は、一年前のあの日の彼女の姿が写っている。彼女の姿はあの日のまま、変わらない。黒子が屋敷に駆け付けたときには、もう彼女は、その姿をかたどった、物言わぬ白い閉曲線となっていた。警察の現場検証の都合上、仕方のないことだとわかっている。黒子は一介の高校生でしかないのだ。
同じ高校に通う親がうだつの上がらない探偵である、幼馴染の空手少女はいない。せいぜい富豪のバスケ少年でしかない。だから警察の警部と個人的なつながりのある某高校生探偵などではないし、怪しげな組織に追われ毒薬だって飲まされない。だから彼女の死は、警察が言うとおり強盗によるものなのだ。別の真犯人による怨恨などではない。特別な意味などない、誰の上にも訪れる、誰にも平等で、故に惨たらしい残酷な死。
彼女を模した白線は、そこに彼女が確かに存在していたことを、黒子に告げる。
そしてこの世界のどこからも、すでに彼女が失われていることを、同時に語っていた。

(この関節の外れた世界で、ボクは一体何をするべきなのでしょうか。光樹さん)
黒子は、眼下を見下ろした。そこにはたしかに、あの日感じた静寂がそこにあった。



黒バスのテツヤペスト(2013/03/14)

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